「……詩乃」
カサリ、と人為的に草が揺れる音がして。
声が聞こえた。
ビクンっと、体が跳ね上がる。
…もはや、脊髄反射に近い。
……蓮!
「……逃げるなよ?」
そういって、茂みの上から私を覗き込んでいる。
反射的に仰け反る。
這ってでも逃げようと思ったけれど。
…蓮の声に、硬さがなくなっていることに気がついたから。
強引さも。
少し冷静になったみたいに。
……穏やかそうな、声を。
バツが悪そうに髪を掻きあげて。
本当に不本意そうに、でも、静かに言葉を紡いだ。
「…悪かったよ。怖がらせて。…嫌なら触らないから」
「………」
「…お前、昨日と別人みたいだな」
「………」
「…詩乃。せめて、返事しろ」
「………は、い…」
膝を抱え込んで蹲っていた私に、ため息交じりに話しかけてくるから。
…ようやく。
少しだけ頭をあげて。
馬鹿みたいに素直に返事をする。
……叱られた子供みたいだ。

