30分程走っただろうか、道端に小さなお店が見えた。
そう言えば、ここに来てお店を見たのは、初めてかもしれない。

「ここが家から一番近い店、田川商店だよ。」

山野さんは丁寧に教えてくれた。

「じゃあ、お家までもうすぐなんですね?」

私は少し嬉しくなって訊いた。
こんなにガタガタの道に揺られ続けていたら、いくら乗り物に強い私だって酔いそうになる。早く着かないかな。

しかし、私のそんな淡い期待は次の山野さんの一言で脆くも崩れ去った。

「まだだよ、ここで半分くらい。」

「えっ……。」

私は絶句した。
一番近いお店が車で30分のところにあるなんて。
私だって、ものすごく都会っ子ってわけじゃないけど、こんなに田舎だとは。

「あの、コンビニとかは……?」

ない、って答えが返ってくるのはわかってるけど、訊いてみる。
一応ね、一応。

「コンビニ?ないよ、そんなの。」

あぁ、やっぱり。
ため息を吐きたくなるけれど、山野さんはここで生活してるんだ。そんなことしたら、失礼になっちゃう。

「コンビニなんていらないよ?田川商店に生活必需品は置いてあるし。」

「ですよねぇ。」

あはは、と笑ってごまかす。
最後の方がため息っぽくならないように気をつけて。