「美優ちゃんは農作業、したことあるの?」

気がつくと山野さんはいつの間にか私のことを『美優ちゃん』と呼んでいた。
まぁ、別にかまわないけど。

山野さんは沈黙が苦手らしい。
黙って外の流れる景色を眺めていた私にやたらと話しかけてくる。

「いえ、ないです。」

「家庭菜園とかは?農学部で実習とか、ないの?」

「ないですね。」

あまりにそっけない私の返事に山野さんはうんざりしたらしい。
少し投げやりに訊いてきた。

「じゃあ、ここにどうして来たの?」

どうしてって……先生に聞いてないの?単位が欲しいからだよ。
なんて、まさかそんなこと言えるわけもなく。

「農学部なのに、実際の農業を知らないのはどうかな、と思って。体験してみたい、って先生に相談してみたんですよ。そしたら、山野さんを紹介してもらえたんです。」

思ってもないことを精一杯絞り出して作ったそれらしい答えを返した。
でも、私の答えに山野さんは満足そうな顔で頷いた。

「そうだよなぁ、農学部なのに農業したことないなんておかしいもんな。うん、美優ちゃんの考えは当然のことだよ。」

あぁ、この人、自分の仕事に自信持ってるんだなぁ。
キラキラした目で農業について熱く語る山野さんを、私は冷めた目で見ていた。