疲れきった体を布団に横たえると、窓から満月と半月の間のような月が見えた。
月明かりに包まれて、私はお昼のおばさんの言葉を思い出していた。

『農業だけなんて、できるわけないのよ。』

『晶は農家を継がなくていいと思ってるの。』

私は、知っていた。知識として持っていた。
専業農家が減っていること。食料自給率が落ちていること。若手の農家がいないこと。

全部、知ってたんだ。
教科書で勉強したから。学校で講義を受けたから。

だけど、私は何も知らなかった。
農家の誇りも、作物に注がれる愛情も、慣れない私をいたわってくれるおばあちゃんの優しさも、家計を支えるためプライドを捨てたおじさんの強さも、何より息子の将来を心配するおばさんの辛さも。

私は何一つわかってなかったんだ。
文字を読んで講義を聞いて、全てを理解したつもりでいた。

試験の結果が良くたって、単位が取れたって、現実を知らなきゃ意味がないじゃない。

初めてここに来たとき、おじさんは楽しそうに農業について語ってた。
熱く、誇り高く。

あの時の私には、全く理解できなかった農業の楽しさ。
今なら、少しだけわかる気がする。