海に花、空に指先、地に霞


「お、お帰りなさい……」

「……ただいま」

半笑いで、間抜けた声の私が、慌ててソファから離れながらそういうと、凪世はいつものように穏やかに笑った。
リビングを通り抜けて、キッチンへ足を向ける。

「ナギ、今日の晩御飯、何?」

もうすでにテレビに目を向けている天鳥が、ソファの上に半身を横たえながらだらりと声を掛けた。
…服着てってば!


「パスタにしようかと…。沙杏ちゃん、イタリアン好き?」

「あ、好き」

凪世の声に連れて行かれるように、後について台所へ足を向ける。
手際よく、食材を片付けている凪世の背中に向かって、つぶやく。

「…今日は、手伝う」

ふ、とこちらを向いて、丁寧に笑ってくれた。

「そ? ありがとう。じゃあね…」

これを洗って、と野菜を手渡されて。
丁寧に指示される。
私も、素直に従った。
並んで立つ、台所。

水道の音、包丁の音。食器の音。火の音。

料理を作る音っていうのは、独特だと思う。

夕方の音。
夕闇の匂い。