わけのわからないパニックに襲われて。
実際、化け物みたいなのにも襲われているんだけど。
当然ながら為す術なく、ただパニックになっているところへ。
凛とした、男の声が響いた。
「はい、そこまで」
「……………!」
呆然と。
声の主の方へ顔を向ける。
コツコツと足音が響く。
もちろん、複数だった。
足音の主が、倒れこんでいる私の頭の前まで来た。
見上げると。
その人は、切れかけの街灯に僅かに照らされて、優美に微笑んだ。
「大丈夫? 沙杏ちゃん」
「……なぎ、せ…?」
背後から、軽やかな声も響く。
「コレ、誰の管轄?」
「オレ。ここは海が近いからな。…まったく雑魚とはいえ面倒な」
男が私を助け起こしながら、溜息をついて、手をひらめかせる。
すると、シュルリと、凪世の手に…水の塊が…集まりだした。
さらに指先を動かせば。
水のくせに、槍のような…形に。
それを黒い煙に向かって、投げつける。
ひらひらと、あくまで優雅な動きだった。
水の槍は、着地と同時に、波紋のように広る。
蠢く煙を包んで。
私の足を通過するように、あっという間に地面に沈んだ。

