揺れる髪を懸命に止める一つの髪留め。
　揺れる枝と一緒に華やかに舞う花びら。
　どちらも桜色。
　細かく揺れる女の子の短い髪。
　大きく揺れる枝垂桜の長い枝。
　どちらも同じ風で揺れる。
「今日は学校を休んだのかい？」
「うん！だって天気がよかったんだもん！」
　女の子は悪戯が見つかった子供のように、無邪気に笑う。
「学校を休んじゃ駄目だね」
　僕は女の子を叱る。それでも笑顔で。
「は～い。ごめんなさい」
　女の子は僕に謝る。それでも笑顔で。
　僕のことを見、舌をちょっと出す女の子。
「歩こうか？」
　今度は僕が女の子を誘う。
「うん」
　女の子は頷き、歩き出した僕の横を一緒になって歩く。
　枝垂桜――
　柳のように枝を優雅に、自然のままに揺らす。
　そして自然のままに花を付け、自然のままに散らす。
　――糸桜。
　桜の花びらが僕と女の子との間に落ちる。ゆっくりと。