「不思議かい?」
 女の子は二度も頷く。
「うんうん不思議不思議。お父さんとお母さんは心配しないの?」
 僕は笑いながら答える。
「それは無いよ。僕の父は、十年位旅をして来い。とか言う人だからね」
 電車はトンネルを抜ける。
「そうなんだ~。あたしのお父さんとは全然正反対。あたしのお父さんなんてね、あたしが高校に入ったばかりの時なんか毎日電話してきたんだよ。今でも思い出しただけで笑えちゃう」
 女の子は小さく笑う。
「それにね、お母さんはいつも、お父さんは一人娘のあなたが家から出て行っちゃて、この頃元気が無いのに、あなたに電話する時間が近づくと、そわそわし始めて落ち着かないんだから。本当、寂しがり屋さんね。って帰るたびに言うんだよ。でもね、実はお母さんも結構寂しがり屋。だってあたしが家に帰ると、いつも二人の質問攻め。だけど二人の質問攻めに遭うと、ああ、家に帰ってきたんだなあ。って思えてあたしまで何だか嬉しくなっちゃう」
 女の子はそう言ってまた笑う。
 電車は走る。
 前方には二つ目のトンネル。
「ねえ、お兄さんって何歳?」
 トンネル特有の音を聞きながら僕は答える。
「僕は十六だよ」
「えーっ!!お、お兄さん十六!?な、何だかお兄さんには驚かされてばっかりな気がする……」
 電車はトンネルを抜ける。
 窓の外には紅葉。
女の子はちょっと首を傾げてから、僕に聞く。
「あれ?十六ってことはあたしと同い年?」
『次の駅は、』
 放送が終わるのを待ち、
『お降り口は左側です』
それから答える。
「残念。僕は早生まれだから君の一つ上。高校で言ったら二年生だよ」
 それを聞くと女の子は安心したように息を吐く。
「良かった。一つ上なら、お兄さんでいいよね?」
 僕は笑いながら、
「そうだね」
 と答える。