コウジは空を見上げるのを止める。
「杏、ごめん」
 返事は返らない。
 コウジは続ける。
「杏の言うとおりだ。……俺はもうすぐいなくなる」
――想いは強ければ強いほど、何年も何十年も残る。
「俺は杏を守る。そう約束した。だけど俺は死んでしまった。もう杏を守れないんだ」
 杏は離すまいと、さらに強く抱きしめた。
――だけど弱い想いは、叶える事を諦めてしまった想いは消えてしまうんだ。そう、君のように。
「それでも俺は、杏と少しの間だけ一緒にいれる時間を貰った」
――君の想いを導こう。それが僕の仕事。君に残された刻はあと一刻。それが君と彼女が一緒にいられる最後の時間。
 コウジは自分に時間とこの体をくれた男に感謝した。
「聞いてくれ杏」
 コウジはそう言って杏の腕を優しく解いた。そして杏の方へと体を向ける。杏は泣いている。その両目から涙が幾つも幾つも流れ落ちていく。
 コウジは笑顔を作り、杏の涙を拭ってあげた。それから杏のことを優しく抱きしめる。
「俺にはもう時間が無い。だから、残されたこの最後の時間を杏と一緒に過ごしたいんだ。そして杏とした最後の約束を守りたい。来年の雪祭りは誰も誘わず二人で、二人だけで行こう。その約束を」
 杏はコウジに抱かれたまま、声は出さずに頷いた。それからそっと体を離す。そして泣きながら無理に微笑む。
「コウジ、ありがとう。ずっと、ずっと私のことを守っていて欲しかった。でも大丈夫。私はもう一人でも大丈夫。だから一つだけ守って。最後に二人でした約束」
 コウジは頷く。
 守ろう。杏とした最後の約束を。俺の残された時間が終わるその時まで。