拾壱

「何かさあ、雪祭りって来る奴が違うと、雰囲気も違くなるよな」
 コウジのその言葉で、今まで雪像に心を奪われていた杏が我に返った。
「ダチと来ると祭りって気がするけど、女と二人きりだと全く違うよな」
 杏は少し赤くなりながらもコウジの顔をそっと見る。
 コウジは笑顔で雪像を見ていた。
 いつまでも見続けていたいその笑顔。その笑顔を見た時、杏は不意に現実へと引き戻された。
 会いたい。そう思っていた気持ちがいつの間にかずっと一緒にいたい。そう変わっていた。もし、この場でコウジを手放したらもう二度と会えなくなってしまうのではないか。そう考え杏の心はしぼみ始めた。その時、コウジが歩き出そうとする。
 約束を守りに来た。
 コウジはそう言っていた。ならば、雪祭りが終わり、約束が果たされたならコウジはどうなってしまうのか。
 コウジが急に歩き出したため、二人の手が離れそうになる。
 ダメ。もし今この手が離れたら、もう二度と会えなくなる。杏は不安になり、離れかけた手をきつく握った。
 驚いたコウジが振り返ろうとする。
 それよりも速く杏はコウジの背に抱き付いた。
「ダメ!」
 いきなりのことでコウジは驚いたが、その後その言葉と杏の行動の意味を理解した。
「雪祭りが、約束が、約束を守ったらまたいなくなるんでしょ!?」
 杏はいつの間にか、自分の目に涙が溢れ流れていることに気が付いた。本当に泣き虫になってしまった自分に少しばかり悲しくなる。
「もういや!!コウジ私に言ったじゃない!これからは私を守るって、そう言ったじゃない!!どうして自分だけいなくなるの!?守ってよ!私のことを守ってよ!!」
 抱き付いた杏の腕に力が入る。涙で服が濡れる。
 コウジは空を見上げる。
 見えるものは空から降る雪。
 自分に最後の時をくれた男を思い出す。
――想いは雪とよく似ている。
――雪と?
――そう。雪は一片ではすぐに消えてしまう。けれども、その一片が積み重なり大きくなれば長い間消えることは無い。
――それの何処が似ているんだ?
――想いも同じ。弱い想いはすぐに消える。そして、想いが積み重なって出来た強い想いはいつまでも残り続ける。
――それって似てるか?
 その男は笑った。
――ええ、僕はそう思うよ。