捌

「それじゃあ、今日の夜も見に行くんだね?」
 僕は尋ねる。
 女の子は、
「はい」
 と言う声と共に頷く。
 それから女の子は顔を上げ、初めて僕を見る。初めて見せる微笑。その子の白い頬には涙の跡。
「いきなりこんな話しをして、すみませんでした。でも、聞いてくれてありがとう」
 僕も微笑み返す。
「いいえ」
 女の子はベンチからそっと立ち上がる。
 僕も一緒に立つ。
「今日は本当にありがとうございました」
 女の子は長い髪を揺らし頭を下げる。
「気にしなくていいよ。それじゃあ気を付けてね」
 僕は微笑んだままそう言う。
 女の子は来た時渡った横断歩道へと向かう。
 僕のことをもう一度見、また頭を下げる。
 僕は手を振ってそれに答える。
 信号が青に変わり、女の子は人々と共に渡り出す。
 その後ろ姿を僕は消えるまで見つめる。
 そして溜息。
 僕は振り返り、女の子とは逆の方向へ足を進める。