「私は嬉しくて、思わず泣いてしまいました。自分自身の気持ちを伝えられたわけではないのに、彼が私のことを好きになってくれたのでもないのに、ただ、彼の傍に少しでもいることが出来る。そのことが嬉しかったんです」
 女の子の涙は量を増す。
「それなのに私は自分の体の管理を怠ってしまい、彼との約束を破ってしまいました。でも彼はそんな私を怒るのでもなく、見捨てるのでもなく、笑顔で慰めてくれたんです」
 女の子の顔が少しばかり綻びる。
 でも涙は消えない。
 僕は静かに話しを聞き続ける。
 僕の仕事を終わらす為。
 僕の一人旅を始める為。
「私は彼が毎日お見舞いに来てくれるのを不思議に思い、聞いたんです。どうして私のことをこんなに気遣ってくれるのか?と」
 女の子は空を見上げる
「彼は笑って答えてくれました。小さい頃守ってもらった。だから、今度は守ってあげる。……私は泣いてしまいました。そう言ってくれたことが嬉しくて、その後私のことを好きだと言ってくれたことが嬉しくて、嬉し泣きをしてしまいました。それから、私が今まで一人で悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなって、泣きながらそのことを彼に話し、二人で笑いました」
 女の子は雪像へと目線を戻す。
 涙がこぼれ落ちる。
「最後にその人はまた約束をしてくれました。来年の雪祭りは二人だけで行こう。って……それなのに……」
 女の子の声がくぐもる。
 女の子の頬を涙が滑り落ちる。
 女の子はコートの袖でその涙をぬぐう。
 僕は前を見たまま口を開く。
「死んでしまったんだね」
 女の子は声を出さず、小さく頷く。
 再び空から降る白の結晶。
 女の子の白いコートへと降り、姿を消していく。