「小学校から中学校へ変わると、その男の子もどんどん変わっていきました。私より小さかった背も大きくなって私のことを簡単に追い抜いてしまいましたし、声変わりもして、力も私なんかより全然強くなってしまって、泣くこともなくなりました。弟から一人の男子になってしまったんです」
 女の子は一度口を閉じる。
 表情は悲しそうなまま。
「子供の時と同じように話しは出来ました。でも、小学校の時と違い、私はその子との間に距離を感じました」
 女の子は完全に下を向く。
「高校になって、二人とも同じ高校に入学しましたが、その子との距離は広がっていくだけ……私は完全に自分の居場所を無くしてしまいました」
 女の子は膝の上に載せていた両手を、握り拳へと変えた。
 僕はただ黙って話しを聞く。
「その子と話す事が少なくなって、その子の傍にいることが出来なくなって、初めて私は自分の気持ちに気付きました。私がその子の傍にいたのは、その子の為ではなくて、自分の為だったという事に……」
 自分の為――
 僕が唯一の理解者であり、同じ苦しみの共有者であった彼女の傍にいたのは、彼女の為だったのだろうか?
 それとも、自分の為だったのだろうか?
 答えは分からない。
 風が吹き、女の子の栗色の髪を揺らして行く。
 女の子は乱れた髪の毛をそっと左手で直す。
「私は苦しみました。気付いてしまった自分の気持ちの為に。本当の気持ちをその子に伝えたくても、それが出来ず私は私自身を恨みました。どうして私はいつもタイミングが悪いんだろう。って……」
 女の子はもう一度顔を上げ、前を向く。
 その眼には涙が浮かび始める。
「そんな時、その子と家の前でばったり会ってしまいました。私は突然のことに戸惑ってしまい、思わず家の中へ逃げ込みそうになりました。でも、その子はそんな私に昔と変わらない笑顔を向けてくれました。そして、今度の雪祭り、二人だけで見に行かない?そう私を誘ってくれたんです」
 僕は先程話しをした男を思い出す。
 悲しみの眼をした男。