男は淡々と話しを続ける。
 僕は静かに聞き続ける。
 太陽が見えるにもかかわらず、舞い落ち始めた雪。
「本当は見えないくせに、見える振りして懸命に俺を慰めようとしてたしな。ガキの時の俺は本気で信じてたし。まあ、自分と同じ人間がいるってことより、自分の事を分かってくれる人間がいたって方がガキの俺は嬉しかったんだな、きっと」
 僕は男と並んでテレビ塔を見ている。
 白の世界で一つだけの赤の姿。
 理解者――
 僕は男の話しを聞きながら、昔を思い出す。
 僕のような力は無くとも、僕と同じように想い達を見ることが出来た少女。
 彼女もまた苦しみ、呻いていた。
 僕が旅へと出る時、一人見送りに来たその姿が今でも頭の中に鮮明に残っている。
「僕にもいたよ。僕のことを分かってくれる人が」
 男は僕を見る。
 僕は嬉しそうに笑みを浮かべる男を見る。
「そうか。やっぱ味方してくれる奴がいるってのはいいな」
 男はまたテレビ塔へと視線を移す。
「ええ」
 僕もそれに続く。
 ゆらゆらと揺れる白い結晶は地へと辿り着き、白の世界をさらに強く、さらに濃く変えていく。
 僕の目の前を一片の雪が通り過ぎる。
「その人は元気か?」
 男は聞く。
 僕は答える。
「ええ。二年近く会ってないけど、彼女なら元気にしてると思うよ」
 僕は京都にいた頃の記憶を頭の中に広げていく。
 昼間でも雪像を見ようと訪れ、足を止めて見入る人の群れ。
「そうか」
 男の吐く溜息が聞こえる。
「俺は大切なものを失ってしまった。もう杏を守る事が出来ない」
 僕は、昨日一人泣いていた女の子を思い出す。
「ガキの時、俺を守ってくれた。だから今度は俺が杏を守ってやる。そう決めたはずなのにな」
 赤の塔を見つめるその眼には、悲しみの色が映る。
 太陽が雲に隠れ、雪像達が輝きを失う。
 それでも見入る人々。
 冬――
 それを表わす色は黒。
 それでもその季節を染めるのは白。
 地から、山から、建物から木から全ての色を奪い、白へと塗り替える。
 それが冬。
 男はただただ前を見る。
 僕は口を開く。