参

 太陽の光を浴び、輝く雪像達。その雪像が置かれている大通り公園。その一角に僕は立っていた。約束の時間まではまだ余裕がある。
「よう」
 僕は後ろから声を掛けられた。振り返る。
 そこに立っていたのは一人の男性。年は僕と同じくらい。茶色く染めた短髪。背は高い。
「昨日は杏(あんず)が迷惑かけたみたいで悪かったな」
 その男は僕に笑顔を向け、近付いてくる。
 僕は昨晩のことを思い出す。
 涙で濡れた白いコートの袖。栗色の髪の女の子。
「いいえ」
 僕も笑顔を返す。
「本来なら杏を慰めるのは俺の役目なんだけどな。それにしても久しぶりに驚いたよ。まさか霊を見える人がいるとは思わなかった」
 その男はまじまじと僕を見る。
「ええ、生まれつきそう言う体質なんだよ」
 僕は答える。
「ハハ、俺と一緒か」
 男は少しばかり声に出して笑う。
「そうみたいだね」
 目の前には城を象った雪像が置かれている。その奥には赤いテレビ塔。
 その建物に掲げられた時計は、十二時四十分をデジタルで表示している。
「それにしても、俺と同じ悩みを持っている人がいるってのは、何となく心が安らぐな」
 男は空を見上げ、ポツリと言葉を漏らす。
 吐く息は白い。
 男は苦笑いを浮かべ、僕を見る。
「アンタも色々苦労したんだろ?俺のはその苦労が分かる。俺もそうだったからさ」
 僕は、
「ええ」
 と答える。
 男はその答えで満足したらしく、自分のことを話し始める。
「アンタもそうだったと思うけど、俺は小さいガキの頃は人間と霊の区別が出来なくて、色んな人に気味悪がれたなあ。親にまで白い目で見られたしな。あれって結構傷付くんだ」
 僕が吐く白い息は、天に昇ろうとし、すぐに消えて行く。
「ええ、分かるよその気持ちは」
 人と違う自分。それは子供にとっては苦しみでしかない。
「でもよ、やっぱり一人ぐらいはいるんだよな、味方してくれる奴が」
 男はまた笑いを見せる。
「俺の場合は杏がそうだった。俺はこう見えても、ガキん時は体が小さくて、気の弱い典型的ないじめられっ子で、杏もこれまた典型的はいじめっ子から俺を守る姉的存在だったわけ」