壱

 僕は閉じた時と同じように静かに目を開ける。
 目に入ってきたものは、先程と同じ雪像。
 そして、雪。
 僕は雪像から目を放し、僕の横で雪像に見入っている人々へと移す。
 誰もが目の前で幻想的な美しさを放つ雪像を見ている中、僕のすぐ横に立っている女の子は下を向いていた。
 年齢は僕の一つ下か、僕と同じくらい。栗色の髪を背中まで伸ばしたその女の子は、
 小さく泣いていた。
 僕は再び目を閉じる。
 小さく息を吐き、小さく息を吸う。
「大丈夫かい?」
 僕はその子に声をかける。
「えっ、あ……」
 突然の事に驚き、その子は言葉を失う。
 長い間泣いていたのか、僕を見つめる目は赤くなっていた。そしてその子の白いコートの袖は涙で濡れている。
「な、何でも無いんです……ただ、……」
「昔を思い出したんだね?」
 女の子は先程よりも驚き、涙で光る両目を大きく見開く。
「えっ!何で分かったんですか?」
 僕は微笑んで答える。
「そう言うふうに泣いている時は、大体、皆そうなんだよ」
 女の子は少しの間僕を黙って見つめていたが、白いコートの袖で涙を拭い、
「心配して下さって、ありがとうございます」
 と言い、頭を下げる。
「いえ、こちらこそ突然声をかけて、驚かしたみたいで悪かったね」
 僕がそう言うと女の子は頭を上げた。
 女の子の目から足元に積もった雪へと、一滴の涙が落ちていく。
「あっ」
 女の子は慌てて涙をぬぐう。
 ぬぐってもぬぐっても止まらない涙。
「ど、どうして……」
 女の子は無理に止めようと、何度もコートの袖でぬぐう。
 それでも止まらない。
 遂には雪と同じ色のコートの袖は、止まらない涙と揺れ落ちる雪によって、溢れてくる涙をぬぐうことが出来ないくらい濡れてしまう。
 それでも懸命にぬぐい続ける女の子。
 僕は黒いジャケットのポケットから黒いハンカチを取り出す。
「使うといいよ」
 そして差し出す。
「え……」
 女の子は戸惑う。