序

 雪――
 それは全てを包み込み、静寂をもたらす空からの贈り物。
 僕はただ、その舞い落ちる姿だけを見ていた。
 雪の街、札幌。
 僕がこの地に足を踏み入れたのは、今から三ヶ月前。
 そして、僕はここで年を越した。
 僕は今、テレビ塔から始まる大通り公園にいる。
 闇の中、幾つものライトに照らされた雪像。
 あまりの美しさの為、人々から溜息が漏れる。
 札幌最大の行事である雪祭り。
 人々が雪像を見つめる中、僕は一人だけ揺れ落ちる雪を見ている。
 美しく仕立て上げられた雪像よりも、誰にも手を加えられず、自然のままの姿で地へ降り注ぐ雪の方が美しい。
 温かな柔らかい風が吹く。
 僕は静かに目を閉じる。
 僕の仕事が始まる。