俺は荷物を手近な場所に隠して、ベルウッドのところへとやってきた。

ベルウッドと言っても別に外人ではない。

鈴木さんというホームレス仲間だ。

「俺たちみてえな浮浪者がホームレスだなんて横文字で呼ばれるんだから、俺が英語でベルウッドって呼ばれてもいいじゃねえか」
という、納得できるんだか出来ないんだかわからない理由でそう名乗っている。

誰がどう名乗ろうと気にするような連中は周りにはいないし、こんな生活じゃ戸籍の有無すら問題にならない。

彼の本名が鈴木であろうとなかろうとどうでも良いのだ。

彼がベルウッドと名乗るなら彼はベルウッドだし、周りの連中が鈴木さんというなら、鈴木さんでもある。

ともかく、俺がベルウッドのところへ行くには理由がある。

ベルウッドは以前は床屋をやっていたらしく、ホームレスになってからも商売道具だったはさみ一式は手放さなかった。

彼は仲間の髪を刈って、その見返りとして食料や酒を得ていた。

天職だったのだろう。彼は別に見返りを求めているわけでも、生きる手段として散髪をしているわけではないようだ。

くれてやるものが何もないというホームレスの髪でさえも、彼はニコニコ顔で快く刈ってくれた。

だが、社会というのはうまく出来ていて、そのホームレスが食料を手にしたら真っ先にベルウッドのところへ持ってくるのだ。

ひょっとしたら、それを見越してタダでやっているのかもしれない。

そういうわけで、俺も髪を切ってもらいにベルウッドのところへと行ったわけだ。

手土産はワンカップ二つ。

こいつを買ったために俺はまた文無しに逆戻りだ。

幸いなことに、俺は酒が飲めない。

つまり、このワンカップをくれてやってもまったく惜しくないのだ。

ああ、腹が減った。