雷鳴の夜

困ったように二、三度頭を掻いた後、彼は再び歩き始めた。

私の脇を通り過ぎ、廊下の奥へ。

「なら別の出口を探すしかねえのか…ちっ…めんどくせぇこった…」

…質問して以降、彼は私への興味をなくしたのか全く視線を向けようとしなかった。

裸足の足をペタペタと鳴らして、暗闇の中を歩く。

その姿に、この状況下への恐怖とか不安は感じられない。

暗闇や、この場に何か潜んでいるかもしれないという考えが、頭の中に全くないようだった。

「あ、あのっ」

私は思わず声をかける。

「危ないですよ…真っ暗だから足元見えないし…」

私はパタパタとサンダルを鳴らして彼の前に立つ。

「私、ライト持ってますから…私が前行きます」

「……そうか、悪いな」

男は少し目を丸くしていた。

…素性も知れない相手なのに、気遣ってしまう。

こういうお人好しな所は、間違いなくお母さん似だ。