「明日香、瑞穂、琉璃。ちょっとここに座りなさい。」
 午後8時32分。お父さん、めっちゃ怒ってます。
 私達3人を居間のテーブルの前に座らせて、その向かえ側にお父さんとお母さんが座る。俯いたまま無言の私達に、
「今日、何時に帰ってきた?」
と、お父さんの攻撃。
「…。」
「…。」
「…。」
 3姉妹、黙秘。
「今日は何時に帰ってきたんだ?」
 お父さんの再攻撃。少し口調が強くなっている。
 私達は明らかに目を泳がせ、膝を突き合った。
(あんたが言ってよ。)
(いや、お前が言えよ。)
(そっちが言いなさいよ。)
 バンッとお父さんがテーブルを叩いた音で、私達は飛び上がる勢いで背筋を伸ばした。
「しっ7時半頃だったと思います。」
 私は勇気を振り絞って答えた。恥ずかしい事に声が震えていた。
「7時半?」
 お父さんは私を睨む。
「いや、40分は過ぎてたかも。」
 瑞穂がテーブルの真ん中一点だけを見つめたまま答えた。放心寸前?
「8時過ぎてただろ。」
 お父さんからの痛恨の一撃。
「…。」
「…。」
「…。」
 これにはさすがに答えない。というか、答えられない。そうだったっけ?
「門限は6時だって言ったよな。誰とどこで何をしていたんだ?ん?明日香。」
「友達と…カラオケで歌を歌ってました。」
「3人とも時間に気が付かなかったのか?」
「えっと…夢中になってて。ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」
 そして静まり返る居間に、壁時計の時を刻む音だけが響く。