泉に説得され、相良君の家に赴いた。チャイムを押す手が震える。
「…うっ」
 やっぱダメだ。
 相良君の家から少し離れた。
 わかっている。もう相良君と一緒にいる時間が無くなっちゃうって事。
 違う高校に行ったら、相良君には相良君の新しい世界があって、その中で新しい人望が生まれるんだろう。
 そして誰かと付き合ったりして、私の存在は忘れ去られる。
 わかってるんだよ、そんなの。
「あれ…明日香?」
「さ…相良君。まだ帰ってなかったんだ。」
 相良君は私の背後にいた。
「どうしたの?」
「ごめんなさいっ」
 また謝ってしまった…。
「何が?」
「いや…あの…」
 早く言え。言ってしまえ。
「私、相良君が…す…」
 むしろ言った方がラクだよ!
「す…好きです。それを言いたくて。」
「…。」
 沈黙。
「あ…ありがとう。」
「ごめんなさい。迷惑な事言って。」
「…。」
 また沈黙。
「…迷惑じゃないよ。明日香には本当に感謝してる。辛かった時、心も体も救われた。生きてって言ってくれた。それは本当に嬉しかったんだよ。俺もそーゆー意味では明日香が好き。…でも明日香の好きとは違うかな。」
 優しい相良君。言葉を選んでくれている。
「明日香の気持ちは嬉しいけど、俺は友達のままでいたいな。」