「ああ……」
今回ばかりは立ち直れないかも。

「杉原さん、杉原さんっ!」

私を呼ぶ声が聞こえる……幻聴?
いや、

「……え、あっ、はい!」
現実だ。

「呼ばれたらすぐ返事するように」

「すみません」

「次の行から読んで下さい」

次の行?
どうしよ……全く聞いてなかったよ──!
英語の教科書を開いてあたふたするが時は待ってくれない。

「(二ページの五行目)」

サンキュー!

囁き声で教えてくれたのは隣の席の柳谷深雪(やなぎやみゆき)だった。
このクラスの中では席も近いせいか今ところ一番よく話す相手でもある。







「さっきはありがとう~!助かったぁ」

「困った時はお互い様ってね!……それよりどうしたの?元気ないみたい」

「ルームメイトのことで、ちょっとね」

「もしかして、『ホストクラス』の村瀬君と同室っていう噂?」

ホストクラス?
そっか……アイツ『G組』なんだ。

「噂ってもう広まってるの!?」

「相手は『アイドル』と同じようなもんだからね、無理もないよ」

アイドル?

「……すごくやな予感するんですけど」

「ホストクラスの中でも村瀬君と本城君は一、二を争うイケメンだからね〜一ヶ月で十人の子に告白されるって聞いたわよ」

「へぇ〜そりゃ凄い」

「気をつけた方がいいわね」

「何を?」

「……村瀬君。そういう男には影に性悪女が居るってパターンが大半だから」

確かに。そ〜いや、こんなようなドラマ昔やってなかったっけ?

「柳谷さん、私ってもう標的にされているのかな……?」

「深雪でいいよ、杉原さんのこと渉って呼んでいい?」

え!?
みゆき……。

よりにもよってあのヤロウと一緒の名前か。

「……うん」

返事はしたものの彼女のことを躊躇いもなく『みゆき』と呼べるようになるには覚悟が必要になりそうだ。