体育館裏。呼び出すための場所としては定番中の定番とも言えよう。

「誤解が生まれないためにも最初に言っておくわ!村瀬君とは何も関係ないの!こっちだって迷惑してるんだから!」

「ふふふ……誤解してるのはあなたの方みたいね」

少女は、私の不安もよそに簡単に嘲笑ったのだった。

「あなたは一体……?」

「自己紹介がまだだったわね、私は一年B組の椎名麻理(しいなまり)。よろしく」

ロングヘアで大きな目をくりっとさせたその子は、第一印象に比べてすごく穏やかに見えた。

「あの──事情がよく飲み込めないんですけど」

「これは忠告よ。あなたは村瀬のターゲットになっているわ」

ターゲット?

「何でそんなこと分かるの?」

「女の勘ってやつかな。あいつにとって女の子と付き合うことは『ゲーム』感覚でしかないの。相手が恋におちたらそこでゲームはおしまい」

そうか。だから初対面の私にいきなりキスしたり、妙に馴れ馴れしくしてきたり……。

「安心していいわよ」

「?」

「大丈夫!絶対あんな奴を好きになったりしないから」

具体的な根拠はないけれど、それだけは言い切れる自信はあった。

「……頼もしい限りね。あなたには私のような思いはしてほしくないから」

「椎名さん……」

「時間を取らせて悪かったわね、何か被害にあった時は言ってね!私は杉原さんの味方だから」

「ありがとう」

私のような思い……か。
何があったのだろう。

そして過去にどれだけの女の子たちがあいつの犠牲になったのだろう──。

気になっている癖に、その時は聞くことができなくて、ただ彼女の後ろ姿を静かに見送っていた。