恐怖 DUSTER

しばらくすると、二人の間にできた沈黙の壁を恵子のほうから崩してくれた。


「弥生の言ってる事は、理解できるし正しいと思うよ・・・」


自分の言葉を素直に受け入れる恵子の姿勢に弥生の胸は痛んだ。


「ご、ごめんね恵子!」


恵子は微笑みながら優しい口調で言う。


「誤る必要なんてないよ、私も自分が他人の人生を生きているだけだという事は解っているから・・・」


恵子の優しい言葉が、弥生の胸をさらにえぐるように痛みを与える。



「・・・弥生の言うように、私が自分の人生じゃなく他人の人生を生きるのは、私自身が自分に課した罰なのだから・・・」


「・・・お菊ちゃんの人生を奪った、私への罰・・・」



弥生は恵子の心の奥深くにある罪の意識を感じていた。



・・・恵子は、お菊ちゃんを消し去ってしまった罪の意識から、他人の人生を生きていく事にしているんだ・・・



・・・永遠に自分では無い誰かとして生き続けていく・・・



・・・それは、終わりの無い生き地獄なのかもしれない・・・



自分の力では、恵子の思いを変えることができない無力さを感じて、弥生の胸は痛み続けていくのであった。


「弥生、どうしたの?・・・大丈夫?」


弥生を気遣うように恵子が聞いた。


「だ、大丈夫!・・・私は全然大丈夫だから♪」


自分の心の痛みを恵子に悟られぬよう、精一杯の元気を見せる弥生であった。


「くす♪」


そんな弥生の姿を見つめながら恵子は微笑んだ。


「弥生は、本当に良い子だね♪・・・あの子とそっくり♪」


「・・・あの子って、もしかして私の面影がある子のこと?」


「それ、逆でしょ♪弥生があの子の面影があるの♪」


「あっ!そうだね♪」


重苦しかった二人の周りの空気は、再び明るい日向のような暖かいものへと変わっていった。