恐怖 DUSTER

「親が自殺するなんて、子供には耐えられない異常な死なのよ」


「だから子供は二つのことを考えるの・・・ひとつは、親が死ぬほど思いつめていることに気づかずなかった自分自身を責め続けること・・・」


「もうひとつは、親の死が全く理解できずに、その死によって親を憎み続けること・・・」


「お菊ちゃんの子は、親を憎んだの?」


無言で恵子はうなづいた。


「・・・私ね。入れ替わってからも家のことが気になったから時々ようすを見に行っていたのよ。そしたらね、あんなに明るかった家族だったのに、みんな笑顔が無くなってしまってた・・・」


「・・・私のせいで、お菊ちゃんの家族を不幸にしたの・・・」


・・・恵子の中では、恵子の家族じゃなく、お菊ちゃんの家族になるんだ・・・


お菊への恵子の思いは尋常では無いのだと弥生は感じていった。



「ある日ね・・・入れ替わった別人の私で、お菊ちゃんの子に聞いたことがあるのよ」


「お母さんのことを、どう思っていますか・・・?てね」


「その子は、なんて答えたの?」


恵子は悲しい表情で弥生を見つめ言った。



「・・・なにも・・・なにも答えてくれなかったわ・・・」


「なにも?」


「・・・そう、なにもね。でも、その時のあの子の目は憎しみに満ちていたわ・・・」


そう悲しそうに言う、恵子の視線の先は麻美に向けられていた。


「・・・あの子のあの目は、ときどき麻美が私に向ける視線と同じなの・・・」


「えっ!麻美の視線と・・・?」


「あの子の憎しみは・・・あの子の子孫にも受け継がれているのかもね・・・」


寂しそうに言う恵子の横顔を見つめながら弥生は思った。


・・・やっぱり、その子はお菊ちゃんの子じゃなく、恵子の子なんだ・・・


麻美を見つめる恵子の表情は、母親そのものだと弥生は感じた。