恵子は、その時の事を思い出したのか瞳を濡らしながら答えた。


「・・・隠したの・・・」


「えっ?」


生気のないその声はとても小さく聞き取りづらかった。



「ごめん!聞こえなかった。もう一度言って?」



「・・・隠したの・・・」



先ほどよりは、聞き取れるぐらいの声で恵子は答える。



「隠した?・・・隠したって何を・・・?」


「・・・目よ・・・目を隠したのよ・・・」


「・・・お菊ちゃんの目を・・・後ろから手でふさいで隠したの・・・」


「目を隠した!」


「そう、目をね・・・私、どうしてもお菊ちゃんに血だらけの顔を見られたくなかったから必死でお菊ちゃんの目を隠したわ」


「突然、目を隠されて驚いたお菊ちゃんは叫び私の名を呼んだ」


「・・・でも、私は答えなかった・・・」


「お菊ちゃんに見られたくない、お菊ちゃんに私の存在を知られたくない、そう思いただひたすら目を隠し続けた・・・」


「お菊ちゃんが、どれだけ泣き叫ぼうと絶対に手を離さなかった・・・」


「・・・その時のお菊ちゃんの恐怖は例えられないほど大きかったでしょうね」


「当然よね、大勢の人が子供を食う現場を目撃した後で、突然訳も解らず後ろから目を隠されたんですものね・・・」


「・・・それでも、私は手を離さなかった・・・」


「恐怖で心が壊れていくお菊ちゃんにも気づかずに・・・」


「ずっと・・・ずっと・・・手を離さなかった・・・」


「・・・自分の最後の力を振り絞り、なんとか私の手を振り解こうとするお菊ちゃんに抵抗して・・・」


「・・・そして、私は意識を失った・・・」


「・・・お菊ちゃんの目を隠し続けたまま・・・」