恐怖 DUSTER

「戦いに役にたたないからと、食料を断たれた子供や老人が次々と死んで逝ったわ」


「そして、その死体を城の裏側にある崖下に、私達が埋めるように言いつけられたの」


「いつ埋められる側になってもおかしくない、私達がね・・・」


「そ、それが地獄・・・?」


そう問いかける弥生を、冷たい視線で魔性に満ちた微笑を浮かべながら恵子は答えた。


「そんなのは、地獄じゃないわ・・・地獄は・・・地獄絵図は、その後におきるのよ・・・」


意味深な恵子の答えから、弥生はその後の出来事を予見してしまう。



弥生の表情から心中を察した恵子は、再び魔性の微笑を浮かべて言った。


「・・・いま弥生が思ったとおりよ・・・」


「・・・死体を埋めに行った者が・・・」


「・・・その死体を埋めずに・・・」



「・・・食べたの・・・」


予見していたとはいえ、恵子の口からはっきりと言われて嫌悪感と恐怖が弥生の中で渦巻いていた。

そして、最も知りたくもあり、知りたくも無いことが弥生の脳裏をかすめた。

弥生は好奇心という蜜の味に負け、言葉にこそしないが恵子に向かって好奇の視線を送ってしまった。


恵子は弥生の思いを意図していたのか、躊躇無く言った。


「弥生が想っている事が何か解るわ」


弥生は視線を恵子に向けたまま、自分が予測する恐ろしい言葉を待っていた。




「・・・私は、人を食べなかったわ・・・」



自分の想っていた事とは違う言葉を聞いて、弥生は驚きと安堵の表情を浮かべた。


・・・良かった・・・


・・・いくら遥か大昔の事でも、恵子が人を食べたなどと聞かされたら恐ろしくてたまらなかっただろうから・・・