「見てみ、ムツ」

ぴくぴくと揺れる耳は、ニンゲンの“それ”とは完全に違った位置に可愛らしく座っていた。思わず後ずさってしまいそうな自分の体幹を地面と平行に保っておく。
「………!」

めいさん、と声を出そうとしたが唇だけがぱくぱくと動いた。喉が震えなかった。






「ってことだ」
にっこりと笑う明衣さんが俺を手招き。言われるがままに近づいて、明衣さんが座るソファのすぐ傍、フローリングにしゃがむ。
自分の飲んでいたビールの缶を俺に渡した明衣さん。


「飲みな」
こくん。
頷くだけ。



なんなんだ、これ。
アタマがついていかない。






「ごめんなぁ、睦月」
その声にふと顔を上げれば、見慣れた黒のフルフェイスがガシガシと背中を掻いていた。