さっきよりは落ち着いてきた俺。 もう一度楠木さんを見れば、夢でもなんでもなく『耳』は揺れていた。 やっぱり、あるんだ。 そんなことを思ってしまう。 「楠木さんはここにいて下さい」 「?」 「俺、なんか飲みもん取ってきますから」 そろそろとドアノブに手を伸ばし、手を掛けた。少しだけ扉を開けば飛び込む光が網膜を焼く。 少し。もう少し。 そう時間が経過したわけではないと思っていたが、オフィスのざわめきは小さくなっていた。 「待ってて下さい…ね」