「坂口君…?」 「…ハイ。何でもないです」 心配そうに聞いてくれる楠木さんの迷惑にはなりたくなくてそう素っ気ない返事を返したら、楠木さんの安堵のため息が嫌でもわかってしまって、余計に申し訳なくなった。 「……今…何時ですかね」 申し訳ないついでに尋ねると、 「あ…携帯、デスクだ」 なんて間の抜けた返事… …まあ俺もだけど。 腕時計の針はくぐもった闇に埋もれていて使い物にならなかった。 楠木さんが小さく笑った。 暗闇と狭さのせいか、吐息がいやに大きく聞こえて思わずうつむいてしまう。