「…みんなは君の事、そう呼ぶからさ。俺も言ってみた」 ふふっと笑った楠木さんは少し照れていたようにも見えた。 この新しい環境にも少しは慣れてきたのだろうか、穏やかな表情からそう思う。 「なんか、新鮮っスね」 確かに前から一緒の同僚は俺のことを“トキ”と呼ぶ。 けれどこの人に呼ばれることは想定外だったし、なんだかくすぐったかった。 だから俺はそう応えた。 「声をかけてすまなかったね、坂口君…勤務に戻ろうか」 ちらっと時計に目をやった楠木さんがそう言って踵を返す。