妄想哀歌[短編集]















「いっ…んん」



気付いたら
僕は彼女が伸ばした左手を掴み

口から零れる僕の名前ごと彼女の唇を奪っていた。



長かった 一瞬だった
分からない

ただ、彼女の唇は柔らかくて温かく
ずっと胸に支えた想いが溢れそうになった





彼女がゆっくりと唇を離す


「どうしたの?急に」



なんで 何も変わらないままに接するの

お願いだから
どっちでもいいんだ

嫌いでも 好きでも 確変を願っているんだから







戸惑う僕が目にした真実。

さっきまで気付かなかった


僕が掴んだ左手の薬指に、ほどけた包帯
その下にある 薄く環の日焼け痕








ただ僕は何も言えずにその痕を眺めていた。