アタシは覚悟を決めていた
ドアのノブを回す
開いた
部屋の中は 真っ黒でカーテンの隙間から光が少し差し込むだけだった
「三上…?」
部屋の奥から誠二の声が聞こえる
「アタシ…」
「鈴…こっちに来て」
アタシはカギをかけ 暗い部屋の中を奥へと歩いた
奥の部屋は暗室と言って写真を現像する部屋らしい
その暗室に入ると誠二が後ろから抱き締めてきた
誠二の汗のニオイと暗室の独特な埃っぽいニオイが混じって 息苦しかった
「ずっとずっと こうしたかったよ…鈴」
「…誠二 もう終りにしよう?」
「冗談はよせよ!」
「冗談じゃないよ…今日 誠二の授業の後からいろいろ考えたんだ…」
「なんでそんなに…いきなり
…俺 鈴を愛してるんだ
鈴がいないとダメなんだ」
「じゃあ誠二に聞くけど アタシを愛してるんだよね?」
「愛してる」
「誠二はアタシにいつも愛してるって言うけど…じゃあ“愛してる”って何?
誠二には家族がいるんだよね?家族がいるのに…他の誰かを好きになっても それは愛って言わないんだよ…
アタシを愛してるって言うなら 家族を捨ててよ」
アタシは知っていた
誠二がいつも家族の写真を持ち歩いていた事を
アタシはそれを知ってて 写真を何度か破って捨てた だけどその度に違う家族の写真が入っていた事も
この人にはちゃんと帰る場所があるんだ…



