三月二十日

この日は私にとって新たな門出となる日になっていた。
4年間通った美術系大学を卒業して、最後の記念にと仲のよい友人らとイタリア旅行にも行ってきた。
出版社やデザイン会社、企業のデザイン部とそれぞれ社会人として旅立つ友人達との最後の贅沢な旅行となったが、私はそのまま社会に呑まれる事無く一軒の家へ向う。
家よりも高い木が鬱蒼と茂る一軒の家の前に立つ。
両手には最低必需品を詰め込んだ旅行バックだけを手にし、そのアトリエの門を叩いていた。
応答がでる前の数十秒の間深く息を吸い込み呼吸を整える。