その夜、ターニャは
ピートの為に料理を
作った。


勿論、味見など出来ない
のだが、

ターニャが誰かの為に
心を込めて作った初めての
手料理だった。


二人掛けの
食卓テーブルの脇で

揺らめくキャンドルの
仄かな灯りが、

ターニャの頬を艶やかな
薔薇色に映し出している。


スープ皿のスープを
ひと匙ひと匙
掬いながら

彼が美味しそうに
食べる姿を
傍らで眺めながら

ターニャはいつしか
安らぎを感じていた。


『旨いなぁ‥。
高級レストランの味だ。』


『ウソ!‥ホントに?』


『‥何処で習ったんだ?』


『小さい頃、
おばあちゃんがね、

ストーブに大きな鍋を掛けて

豆のスープを作っている所を
よく見ていたの。

踏み台の上に上がって
おばあちゃんの隣でね‥。

フフフ‥、

レードルで、湯気の立った

お鍋の中をコトコト
かき回す姿がまるで
魔女みたいだったわ‥。

危ないから触っちゃ
ダメよ‥って優しく
語りかけながら‥。

‥時々、想い出すのよ‥。
遠い昔の記憶‥。』



ほんの少し塩味がキツめの
スープだったが、ピートは

最後の一滴まで
全てきれいに飲み干した。