これまで見せた事の無い
哀しい瞳でピートがターニャを
見つめていた。


―人の人生は上辺だけでは
解らない。―


彼もまた深い悲しみと孤独の
中で生きて来たのだ。


ふたりの間に暫しの沈黙が
訪れた。


それを破りターニャが口を
開いた。


『ピート…。

私は…
リタの再来じゃない…。

ターニャ・ブラウン。

126年も生きてきた
…ヴァンパイア。

それでも貴方は私に協力して
くれると言うの?』


真剣な目差しでターニャが
最後の問い掛けをした。


『…君は
ターニャ・ブラウンだ。

お父さんはトーマス・ブラウン
勤勉で家族思いの優しい
父親だった。
お母さんはミシェル・ブラウン
美しく、気立ての良い心優しい
母親だった…。

その二人の間に生まれ、
愛情をたっぷりと注がれ、
大切に育てられて来た娘。

それ以外の何者でもない…。

協力すると決めたんだ。』


ピートがその瞳を見詰め
ながら応えた。


『フッ、お人好しね‥。』


ピートの子供に童話を読み
聴かせる様な返答に思わず
ターニャが吹き出した。


『おいおい、ご挨拶だなぁ。』


『ピート…。
ありがとう‥。

貴方に出逢えて良かった‥。

でも、もう後戻り出来ない
わよ。』


『あぁ、構わないさ‥。』


ピートはこれから遭遇するで
あろう未知なる敵を迎え討つ
決意を固めていた。