「お互いのメリットのために、お前もさっき納得したろ?」


社長室で一際存在感を見せる、豪華に装飾された社長椅子に深々と腰掛け、社長はタバコをくわえながらシレッと言った。


第一、ここは“禁煙”だっていうのに!!


相手が上司でなければ……

社長でなければ……


社長に見えないように、ギュッと拳に力を入れた。


「だいたい、こんな紙切れにサインするだけでお前の望みも叶って、後は今と何一つ変わらない暮らしができるんだぞ?」


「……変わらない?」


「まぁ名字と住居は変わるけどな。それ以外は何も変わらないだろ」


「……」


「何を気にしている?結婚のことは公表しないつもりだから、お前もオレも今まで通り好きなようにすればいい」


「お互い干渉しない……ってこと?」


「あぁ。別にお前に他に男がいようが、オレに女がいようが、そんなことも関係ない」


「でもそれって不倫になるんじゃ……」


世間に顔向けできないような、そんな恋愛ならしたくない。


ましてや“不倫”なんて……。