「逃げられましたか?」

 暗い路地の、エアコンの室外機に座った影が問う。
 問われたもう一人の影は、忌々しそうにつばを吐いた。

「逃げられちまッたよ。どーにもあのガキ、いつの間にかあの辺の路地を『完全記憶』してやがッたらしい」

「厄介ですね、彼女の『完全記憶(フルリメンバー)』は」

「ッたく、本当だぜ……」