携帯を鳴らすと3コールで吉原くんは電話に出た。


「吉田さんか。どうかした?」

開口一番にそんな言葉が出てきてちょっとむっとした。


「『吉田さんか』って、なんだか期待はずれみたいだね」


「いや、そういうわけじゃないよ」

吉原くんは少しばかり慌てた。

でもなんとなく期待していた電話が誰なのか、想像もついていた。


「お母さん、電話してきている?」

電話口の向こうで吉原くんは押し黙った。

きっとあの騒動以降、電話がないんだろう。