驚いて、地面に座り込んだままの姿で勇次はヒョウリを見上げる。

ヒョウリはその襟元を掴み、低い声で、先程告げられた名を口にする。


「ムメ…?」


「あ、あぁ…知り合いか?」


「…あの人はこんな時に、何処をフラフラしてるんだ…?

―――おい。あんたの名前は?
誤魔化したら、二度とここが動かないと思えよ?」


心臓。
その大切な臓器がある場所を戸をノックするように叩かれながら脅された勇次は、息も止まるくらいに怖かったらしく、裏返った声で自分の名を言った。

当然である。

ムメと何処かへ消えた一言主への苛立ちから刻まれた、眉間の皺。

それを筆頭に、綺麗な顔を険しくしたその表情は、

どんな脅しよりも恐ろしかった。