「しかし、今更だな…。てっきり知っているもんだとおもっていた。」


ぽつりとつぶやいた言葉に、
「まぁ、よくよく考えてみたら教室で顔合わせる機会もこいつらにはなかったな。」
と慧は納得、といったふうな表情で目を閉じた。


しかし、何やら先程から静かすぎる、と思い九鬼島を見ると、柔らかな芝生の上に膝をついて硬直していた。

「…九鬼島?」




「…ごめんなさい」


俺が名前を呼ぶと、すくっと立ち上がり謝罪の言葉をのべる。



それは何に対しての、誰に対しての謝罪なのだろうか。

長い髪の毛の隙間がら伺える表情は曇りきっていた。

九鬼島は三人のほうへ歩みよると、なにを思ったのか後ろ手に縛り上げていた腕を解放した。


おそらく説教が終わるまでは解かれないであろうと予想された縄が、予想に反して解かれるという突然の出来事に、ひもとかれた腕もそのままに呆然としていた。

「…逃げて下さい。今回は完璧に私の過失です」

「おい!なに言ってるんだ九鬼島!」

九鬼島は俺と慧を押さえるにはあまりにも小さすぎる手で懸命に押さえこむ。

「なんでかばう。」

慧の不機嫌さを含んだ声に唇を噛み締め下をむいた。
「はやくっ…」



切羽詰まった九鬼島の声に、いっこうに動こうとしなかった三人は動きを見せた。

「…そんなんアカンわ。」

「意味わかんねぇよ。俺達は動かねぇぞ。」

紫乃宮、杏條は口々に言った。

てっきり逃げるものと思っていた俺も慧も少し驚いていた。

なかなかに骨のある奴らなのかもしれない。


「離せ。九鬼島、もう意味ないだろ。あいつらは行かないそうだ。」

そういった慧の言葉を聞き入れるそぶりは無く、九鬼島の視線はある一点だけに注がれていた。