俺が自室で横になってからしばらく、部屋のドアが控えめに叩かれた。


今の今では、やり過ごすのが適切な判断だろう。

俺は九鬼島が立ち去るまで息を殺して待った。




頼む、早く戻ってくれ。

だが、俺の願いとは裏腹に、


「せんせ・・・…?………少しだけなら、いいですよね。」




と、独り言を呟いたかとおもうと九鬼島は、俺の部屋へ静かに入りそっと俺の寝ているベットの横に座った。


「まだ…怒って…ますか?
聞こえていないと思いますけど、少しだけ、懺悔させてください。寝てしまっているときに卑怯で…すよね、」

ぽつぽつと聞こえるか聞こえないかというような声で話し出した九鬼島。


「私…最近調子にのっていたようです。先生達が優しくしてくれるから…兄が出来ていたような気分になっていました。」

いい迷惑ですよね、と続ける。

「でもっ…明日からは…普通の生徒にっもど…るね、特別に扱ってくれて…ありが…と。先生としての優しさに甘えてしまって…ごめんなさい。だから…・・・・・・最後にするから…今だけっ」



声を殺して涙をながす九鬼島。
俺の手をそっととってきゅっと握る。

常日頃感じていた、違和感。何時もどこと無く淋しそうな横顔。たまに駄々っ子のようになって甘えてくるコイツ。


全部家族に甘えられないぶんを俺達に求めていたのかも知れない。

「勝手で…すみません。」


『先生』





話しが終わりそっと離れていく手…


俺は無意識に九鬼島の手を掴んでいた。


「また自己完結か?」