「心配ない。無事だ。」

「…ならいいが…。お前、今日大丈夫か?」

「…なんのことだ。」


慧の様子がおかしいのはあきらか。

九鬼島が倒れてもいたって冷静。

それ以前に、いつもの慧はあんな言い方はしない。


重苦しい沈黙が漂うなか、切り裂くように慧が言葉を発した。


「いるんだろ。入ってこいよ。…あ゛ー…大丈夫。捕まえたりしねぇ。コイツが口挟まないほうが、話しやすいだろ?」


そういった慧の目線の先を追うと、煉瓦の塀ごしに藤堂がひょっこりと顔をのぞかせた。


「プッ(笑)」


「なに笑ってんの!」


「いや、…すまん、クスクスっ。だって、さっき九鬼島が発作起こしたとき、壁を擦るような音がしたから。お?入って来るか?と思ったんだが、…流石に無理だよなぁ(笑)」


で?二人が台になって一人が様子見か、(笑)その光景想像しただけで笑えるよ、マヌケすぎて。

と慧が爽やかに黒い発言をすると

「うるせー!俺様はのぼれんぞ!」

「好きでやってるんやないで!」

という声が聞こえてきた。
はぁ、と気の抜けたようなそぶりを見せた藤堂は、


じゃ、お兄さんはそんな野蛮じゃないから先に失礼させてもらうよ。

といってひょいとこちらへ入って来た。

続いて杏條がドカッという音をたててとび越えてくる。
大丈夫なのか?

いや、紫乃宮が…。


ぐぇっと潰れたような声が…おそらく杏條は紫乃宮を踏み台にしてきたんだろう。

ずびっ

「別にっ…俺は一人でも、のぼれるんだかんなっ…塀のぼり楽しすぎるぜーハハハハ!」

不憫としか言いようがなかった。