「もう、追わねぇから、離せ。」


少し不機嫌な慧が促すと九鬼島は脱力したようで、すんなりと離した。

ぐっと黙ったまま下を向くこいつの顔はきっと険しいのだろう。


九鬼島は俺が困ると理解した上で、あいつらと一緒にいた訳でないことがわかっただけで、正直もう落ち着いていた。

しかし、問題は慧だ。

すっかり意気消沈してしまっている九鬼島に不機嫌むきだしで話しかける。


俺はこんなに感情をむきだしにした慧を久々に見た。

「なんで逃がした」


「自分の過失に彼等を巻き込むわけにはいきませんでした…」


「だから、なにが過失なんだよ。」


あぁ、やめろ慧…泣きそうだ。

慧からは見えないだろうが、いまだ下をむき長い髪の毛に隠された顔は今にも泣きそうで、

それでも必死に、震える声で言葉を紡ぎだす姿はとても痛ましかった。


「弥島先生が…困ってった…のに、勝手に、自分…一人が、はしゃいじゃっ…て霧島先生…にも、弥島先生にも…彼等にも…迷惑…かけました。自分の行動…言動がっ…浅はかだった、ばっかりに−…ヒュッ…はぁっ…ンっ…ぁ…はぁっ…ふぅ…ン…」


「慧!…発作が…」

「あぁ…解ってる。」


慧はこちらに近寄ると迅速な対応で薬を飲ませた。

すると九鬼島は、この前のように意識を飛ばした。


「大丈夫なのか…慧?」