てとてとてと

 それ以来、久坂と話らしい話はしていなかった。


 昼休みが終わり、心地よい微睡みを覚える、午後になった。


 今は担任の数学は呪文のようで、睡魔を召喚して攻撃し続けている。


 既に千草は沈没していた。
 茉莉も心なしか眠そうだ。

 かく言う自分もそうなのだが。



「眠気を覚ますいい手段はないか」


「……あたしに聞いてるの?」


「いや、独り言のつもり」


「コーヒーでも飲んでろ」



 それはこの前飲み過ぎた。
 つい口に出そうだった言葉を、なんとか飲み下す。

 また怒られてもたまらない。



「そう言えば、昨日缶コーヒーが大量に捨てられたそうよ」


「……へえ」


「しかも裏庭に。非常識よね、自分で捨てなさいよ」


「…………ああ。まったくだ」


「あんたは、それをどう思う?」


「ポイステハヨクナイヨネ」


「ええ。そうよねっ」


 ――がすっ!


 にこやかな笑みと共に、体育館用の上履きで蹴り付けられた。

 普通の上履きと違い、爪先が堅くて痛い。


 思わず声を上げそうになり、堪える。
 あまり減点されても、困るのだ。



 何をする、と半ば冗談気味に、睨み付けた。

 それがわかっているのか、笑って誤魔化された。



「眠気は覚めた?」


「おかげさまで」


「よかった。ペンで突き刺さなくてすんだわ」



 そう言って、楽しげにペンを回す。


 それがあまりにも自然だったので、つい見落とすところだった。



「久坂。それ、ボールペンだぞ?」



 シャープペンのデザインによく似ていたが、突出した先端にはインクがついていた。


 彼女のノートは、至って普通なB4サイズ。
 当然、使う書き物は消しゴムが使える鉛筆などだ。


 久坂が授業中に黒のボールペンを使うことなど、まずなかった。



 ふと見つけた違和感が、巨大な不審感に変わり。


 久坂は、あ、と身を強ばらせた。
 違和感は、確信に変わった。