てとてとてと

「呼んだか、友よ」


 ぬっと、背後に現われた弘瀬。

 いつからそこにいたのか。


「何、今来たところだ」


「そんなわざとらしい弁明なんてどうでもいい。ほら、ゴミ捨ててこい」


「はいよ。あと、これ使え」


 手渡された物は、特大の消臭剤だった。


 確かに助かるのだが、なぜこんな物を持っている。



「備えあれば憂いなし」



 用意周到にも程がある。


 どうせ、何処かから勝手に持ち出したのだろう。

 問いだそうとするが、そ知らぬ顔で行ってしまった。


 まあ、いい。
 去っていく背中より、今はこのゴミ山と向き合うべきだ。



 ――では茉莉嬢、行くぞ。

 ――行くって何処に?

 ――ゴミ捨てだ。これ頼む。

 ――なんで私が手伝わされるのよ?

 ――そういうな。幸介の頼みだ。

 ――すぐに行ってくるよ!



「……行ってきたぞ」


「いけしゃあしゃあと……」


「効率の問題だ。
 一人より二人、だろう?」


「……手早くすませるぞ」



 あいよ、と気軽に返事する。


 その気安さが、今は救いだった。



「ああ、それからな」



 突然思い出した、と装いながら、弘瀬は重たい事実を口にした。



「既に目撃者がいる。
 何事もなく、とはいかんぞ」



 それは、そうだろう。

 いくら早い時間とはいえ、部活をしている生徒がいる。


 一人も目にしなかったなんて、そんな都合のいい話はない。



 気分が重い。
 同時に、吐きそうなほど胸がムカムカする。


 茉莉がいなくてよかった。

 また、騒動になるところだ。



「……なあ、弘瀬」



 洗剤で洗った、二足の上履き。


 その内一つを、生乾きのまま履き潰した。



「これって、俺のせいか」



「たとえ何があろうと、やった方が悪いに決まっている」


 珍しく、語気を荒げていた。


 その怒りに、また少し救われた。


 しかし、
 もう一人はそうはいかない。