てとてとてと

 あたしは、特別強いわけじゃない。


 昔習った格闘技みたいなものを今でも続け、運動が人並み以上に出来る程度だ。


 力比べなら、女が男に勝てるわけがない。



 まして、相手は柔道部だ。


 以前田沢が紹介していたのを覚えている。
 なおさら勝ち目はない。



 さっきから、ずっと
 足元を警戒されていた。


 もし足技を使おうものなら、倒されておしまいだ。



「写真はどうする?」

「携帯なら動画だろう」

「一番手はもちろん俺だよな?」



 野卑な会話を続け、包囲が狭まってきた。


 どいつもこいつも、
 サカリのついた獣以下だ。



 こんな奴らに触れてほしくない。



 それは強がりというより、
 嫌悪感の方が強かった。



 恥もプライドも関係なく、
 助けを呼ぼうと口を開いた。



「――おっと!」



 でも、それよりも早く、ハンカチが口を押さえていた。


 男が、田沢が、
 狂暴な顔が、そこにある。



「手を噛まれたらたまらないからな。汚いけど我慢しな」



 どうせもっと汚れるんだ。



 それは絶対に、
 聞き間違えなんかじゃない。


 周りを男の嘲笑が取り囲み、
 体が、勝手に震えた。



 こんなに怖くて、
 こんなに屈辱的で、
 こんなに悔しい思いは、
 生まれて初めてだった。



 それでも、あたしは泣かない。



 あとで悔し泣きするかもしれないが、絶対にやり返す。


 泣き寝入りだけは、
 もうしたくない。



 あれほど痛くて、
 あれほど悔しくて、
 あれほど悲しいことは、
 この世界にはないんだから。



 そこにだけは、
 あたしは戻りたくない――!



 男の手が、ブラウスに手を掛け
 スカートの裾を持ち上げた。






 ――カンッ!






 駄洒落みたいな音が、
 そこで聞こえてきた。


 何故か、缶が落ちている。


 運悪く当たってしまったのか、田沢は頭を抑えて、蹲っていた。