てとてとてと

 ――びりびりびり。

「破くな」

「ああ、悪い。胸くそ悪くなった」

 いや、それは本人に失礼だが、
 気分に良くないものだった。

「これも主犯の一人?」

「いや、無関係な女子だ。
 加担した時点で同罪だが」


 そう言わないであげてほしい。
 世の中、弱肉強食なのだ。


 飲み終えた缶コーヒーを、次々と縁に並べていく。


 今朝思い出したのだが、
 田沢とは千草と別件で衝突したことがある。

 一方的な言い掛かりだった。
 ストレスでも溜まっていて、その捌け口だったのだろう。


 結果、売り言葉に売り言葉。
 散々挑発してきたので、つい手を出してしまった。


 そのせいで兄が報復に出て、
 何故か千草と衝突したのだった。


「今回も殴りかかるのか?
 黄金の右ストレート」


 ちなみにスクリューブローだ。
 前日に読んでいたボクシング漫画の影響だった。


「いいや。俺は、関わるなって言われたし」


「……ふうん。なら、そのリストはどうするつもりだ?」


「久坂が個人的にやり返す、って言うなら、必要だろう?」


「やり返さなかったら?」


「最近事故が多いらしい。
 夜道と雨の日は気を付けろよ?」


 怖い怖い、と弘瀬は言う。


 はて。
 自分は一般論を口にしただけなのだが。


「さて、そろそろ、行くか」


 いつの間にか、空の缶がなくなっていた。
 風にでも煽られて、落ちてしまったのだろう。


 いつまでもここにいると、誰かに怒られかねない。

 ギシギシと軋むフェンスを乗り越え、内側へと飛び降りる。


「……心臓に悪い」


「そうか? 高いところは気分がいいぞ」


「見せられる方は心労が溜まる。……お」

 携帯を取り出し、機嫌よく笑う弘瀬。
 ディスプレイには、千草からのメール本文。


『任務完了!
 てか、俺が行く必要なかったんじゃねえ?』


 さすがはエースだ。こちらのキングを簡単にねじ伏せてしまうか。

 でも、トランプは一枚ではいけないんだ。