てとてとてと

 ――ガタン!

 突然の物音に、うとうとしかけた意識が覚醒した。

 寝呆けて姿勢を崩したのかと、そう思ったが、違った。

 隣で、久坂がつまらなさそうな顔をしていた。

 授業が暇で悪戯でもされたかと思ったが、そんなことをする人物ではなかった。


「……どうかした?」


 授業中ということもあり、小声で話し掛けた。


「…………なんでもないわ」


 そっぽを向いて、そう言った。

 どう見ても、何かあった顔だ。

 不審がっていると、不快にさせたのか
 鋭い目付きで睨まれた。


「私に話し掛けないでくれる?」


「どうして?」


「……今は授業中よ」


「なら、授業中でなければいいんだな?」


「……関わらないで」


 直接的に言われた。

 最近避けられがちだったが、
 ついに絶縁状を叩きつけられた。


 しかし、それでは退けない。

 退かせることもできない。


「いいじゃないか。せっかく席が隣なんだし」


「なら席替えを頼みます」


「あと一月は変わらないと思うけど?」


「…………ああ、もうっ」


 目に見えて苛々し始めた。

 普段は、もっと周囲の目を気にするのに、随分と無防備だ。


「……なにか、あったのか?」


「何もないって言ってるでしょう?!」


 声を荒げて、手を振り払った。


 怒鳴ったわけではないが、その声はやけに耳に残った。


 ふと、足元にゴミが落ちていた。


 ぐしゃぐしゃに丸めた、まるで手紙だった物に似ていた。


「返して……!」


 拾おうとしたところで、かっ攫われた。


 明らかに、
 見られることを恐れていた。


 ゴミをポケットに入れると、
 久坂はもう、こっちを向かなかった。


 その横顔は、何か寂しげだった。


「男って、最低」


 言葉が、聞こえた気がした。


 知らないうちに、教室の中を目で追っていた。


 でも、俺はそもそも、
 それが誰かしらなかった。


 あとで弘瀬に聞こうと決めて、
 今は大人しく、前を向く。