てとてとてと

「こ……吾妻くんって、そんなに悪い人なの?」

「はあ?」


 何を言ってるんだ、と隠しもせず嫌そうな顔をする。

 本当に、絵に描いたような自分勝手な人物だ。

 隣の男子が何事かを耳打ちする。

 よく聞き取れなかったが、席が隣だとか。


「……はいはい、吾妻ねえ」


 何を納得したのか、薄ら笑いを浮かべて上機嫌になる。

 どうせロクでもないことに考え到ったのだろう。


「あいつは、我が校自慢のヒロインと対立しているのさ」


 確執は長いらしい。

 入学当初から二人の相性は最悪で、小学校では悪い意味で有名だったそうだ。

 しかし、生徒会長の普段の態度は持ち前のものらしく、豹変する態度は彼だけに向けられるものだとか。

 おかけで、彼女のバロメータを下げる要素はなく、元から人気が高いために味方ばかりが増えていく。

 真逆の位置にいるのは、当然、敵対者だ。

 人気者の嫌われ者は、知らないうちに敵が増えていく。

 それがあの球技大会で、お昼のすべてだ。

 あとはすべて、根も葉も不確かな噂ばかりだった。

 曰く、大事な物を壊したとか。

 曰く、穂積母の隠し子だとか。

 曰く、昔付き合っていたとか。

 曰く、暴走族と関わりがあるとか。

 誰も確かめようとしていないのは、見ていればわかる。

 笑っていたり、
 首を傾げていたり、
 態度は違っても雰囲気が似ていた。

 どうでもいい、
 または楽しんでいる。

 自分とは関係がない、
 他人事だから楽しめるし、
 興味がないのだ。

 改めて、認識した。

 彼の周りには敵しかいない。

 味方になりうる人はいなく、どちらか選ぶとしたら敵になる。

 その例が、親衛隊だ。

 中学になって早期に結成されたという、穂積彩音親衛隊。

 男子学年を問わず大人気な、彼女のためなら死ねる! をスローガンにした特攻集団とも言うらしい。

 親衛隊は日となり影となり、穂積彩音のために日夜活躍しているとか。